PCパーツショップの棚の前で、CPUやグラボには10万円をポンと出すのに、電源ユニットの前では「5,000円でいいや」と足を止める人たちへ。
今すぐその手を止めなさい。
あなたが手に取ろうとしているその安い鉄の箱は、電源ではありません。**愛するPCパーツを道連れに心中するための「時限爆弾」**です。
PCにおける電源ユニット(PSU: Power Supply Unit)は、人体で言えば「心臓」であり、そこを流れる電気は「血液」です。汚れた血液(ノイズだらけの電気)が流れれば脳(CPU)はバグり、心臓が弱ければ手足(グラボ)は動きません。そして心不全(電源故障)は、往々にして突然死を招きます。
本稿では、2025年現在の最新規格(ATX 3.1/RTX 50シリーズ)に対応した知識から、回路設計のブラックボックスの中身まで、8000文字級の熱量で徹底的に解剖します。
第1章 序論:なぜ電源こそがPCの寿命を決めるのか
「動けばいい」という最大の過ち
多くの初心者が勘違いしています。「500W必要なPCに、500Wの電源を積んで動いた。だから正解だ」と。
それは、崖っぷちでダンスを踊っているようなものです。
電源ユニットは、経年劣化します。内部のコンデンサは熱で徐々に容量が抜け、供給能力が落ちていきます。また、安価な電源は「リップルノイズ(電圧の微細な波打ち)」が激しく、これがSSDやHDDのデータを徐々に蝕み、マザーボードのVRM(電圧レギュレータ)にダメージを蓄積させます。
良い電源: 綺麗な直流を送り続け、パーツの寿命を延ばす。10年保証で3代のPCを渡り歩く資産になる。
悪い電源: ノイズまみれの電気を送り、ある日突然「バチッ」という音と共に、道連れ(グラボやマザボの破壊)を引き起こして死ぬ。
投資対効果(ROI)の真実
ハイエンドグラボ(20万円)は、3年もすればミドルレンジ以下の性能になります。
しかし、最高級の電源(3万円)は、10年後も最高級のまま使えます。
PCパーツの中で、これほど「値崩れせず」「長く使える」パーツは他にありません。3万円をケチって20万円のグラボをリスクに晒す行為がいかに非合理的か、オタクなら理解できるはずです。
第2章 基礎理論:オタクなら知っておきたい「電気」の常識
中学校の理科を思い出せ:W = V × A
電源選びの基礎はこれだけです。
PC内部では主に3つの電圧が使われますが、2025年の今、見るべきはたった一つです。
+12V: 【超重要】 CPUとグラフィックボード(GPU)が使うメインルート。消費電力の9割はここ。
+5V & +3.3V: SSD、HDD、USB機器、マザーボード上のチップなどが使用。現代では「おまけ」程度の負荷しかない。
「12Vレーン」の仕様を見極める
電源のスペック表(ラベル)を見てください。ここにメーカーの思想が現れます。
A. シングルレール (Single Rail)
+12Vの出力を「1本の極太パイプ」で供給する方式。
メリット: 1000W電源なら、12Vだけでほぼ1000Wフルに使える。OC(オーバークロック)や、瞬間的な電力消費が激しいハイエンドグラボ(RTX 4090/5090等)に最適。
デメリット: 保護回路(OCP)の設定値が高いため、万が一ショートした時のダメージが大きくなりやすい。
結論: ゲーマーなら迷わずこれを選べ。 現在の主流。
B. マルチレール (Multi Rail)
+12Vを「複数の細いパイプ」に分割し、それぞれにブレーカー(OCP)をかけた方式。
メリット: 安全性が高い。特定のケーブルでショートしても、すぐに遮断される。
デメリット: 「トータルの容量は足りているのに、1系統あたりの制限(20Aなど)に引っかかってPCが落ちる」という事故が起きやすい。
結論: サーバーやワークステーション向け。配線管理が完璧にできる玄人以外は手を出すな。
第3章 解剖学:ブラックボックスの中身を透視する
ここからは、鉄の箱の中身、回路基板の上で行われている「電気の錬金術」にメスを入れます。
1. 一次側と二次側、そして「DC-DCコンバータ」
コンセントから来た交流(AC)は、まず直流(DC)の高電圧に変換されます。現代の高効率電源で必須なのが以下の技術です。
LLC共振コンバータ:
スイッチング損失を劇的に減らす回路技術。これが搭載されていない電源で「Gold認証」を取るのは物理的に困難。パッケージに「LLC」と書いてあれば、基本設計が新しい証拠です。
DC-DCコンバータ(二次側):
昔の電源は、12Vと5Vを連動して生成していました(クロスレギュレーション)。そのため、12Vに負荷がかかると5Vが不安定になる欠点がありました。
現代の正解: まず全部12Vで作る。そこからDC-DC回路で5Vと3.3Vを切り出す。これにより、最新CPUの省電力ステート(C6/C7)のような「ほぼ負荷ゼロ」の状態でも電圧が安定します。
2. コンデンサ信仰の「真実」
「日本製コンデンサ採用!」という売り文句。これは半分正解で、半分マーケティングです。
御三家: 日本ケミコン、ニチコン、ルビコン。 この名前が中に入っていれば、まず間違いありません。
105℃品 vs 85℃品:
コンデンサの寿命は「アレニウスの法則」に従い、温度が10℃下がると寿命が2倍になります。
高温対応の「105℃品」を使うということは、常温で使えば「85℃品」の数倍長持ちすることを意味します。ここをケチっている電源は、3年タイマー内蔵です。
3. 保護回路:あなたのPCを守る7人の侍
スペック表にある謎のアルファベット。これらは全て「守護神」の名前です。
| 略称 | 名称 | 役割とGuruの解説 |
| OCP | 過電流保護 | 電流が流れすぎたら止める。「マルチレール」ではこれが厳しすぎて落ちることも。 |
| OVP | 過電圧保護 | 電圧が跳ね上がったら止める。これが無いとパーツが一瞬で全焼する。 |
| UVP | 低電圧保護 | 電圧が下がりすぎたら止める。不安定動作によるデータ破損を防ぐ。 |
| OPP | 過負荷保護 | 電源全体の容量を超えたら止める。無理をさせないための基本機能。 |
| SCP | 短絡保護 | ショート(短絡)したら止める。配線ミスや異物混入時の最後の砦。 |
| OTP | 過熱保護 | 電源が熱くなりすぎたら止める。ファン故障時などに発火を防ぐ。 |
【注意】 安物電源には、これらの保護回路の一部が省略されている(あるいは実装されていても精度がガバガバな)場合があります。
第4章 規格と効率:80PLUSとATX 3.1の深淵
80 PLUS認証の「色」に騙されるな
「Goldだから高品質」ではありません。「Goldだから変換ロスが少ない(=省エネ)」だけです。しかし、高効率を出すには良い部品が必要なので、結果的に品質と相関関係はあります。
Standard / Bronze: コストカットの塊。オフィスPCなら良いが、ゲーミング用途では熱(ロス)が多く、夏場にファンが唸る。
Gold: 現在のスイートスポット。 コスパ、発熱、性能のバランスが至高。
Platinum / Titanium: 趣味の領域。変換効率92%〜94%。確かに電気代は下がるが、差額を回収するには数万時間の稼働が必要。ロマンを求める人向け。
Guruの補足: 最近は「Cybernetics(サイバネティクス)」という新しい認証も登場しています。効率だけでなく「静音性(LAMBDA認証)」も評価されるため、静音おじさんはこちらをチェックすべきです。
ATX 3.1と「12V-2×6」コネクタ
2025年の電源選びで最も重要なキーワード。それが**「ATX 3.1」**です。
背景: RTX 4090などで採用された「12VHPWR」コネクタが、挿し込み不足で溶解する事故が多発しました。
対策: 改良版の**「12V-2×6」**コネクタが登場。センサーピン(通信用ピン)を短くすることで、完全に奥まで挿さらないと電気が流れない安全設計になりました。
パワーエクスカーション: 最新GPUは、一瞬だけ定格の2〜3倍の電力を要求する(スパイク)ことがあります。ATX 3.0/3.1規格は、このスパイクに耐えることを義務付けています。
結論: 今から買うなら、絶対に「ATX 3.1(または3.0)」対応電源を買ってください。古いATX 2.x電源に変換ケーブルを使うのは、美しくない上にリスクです。
第5章 実践編:失敗しない選び方と「容量計算」の正解
1. 必要なワット数を正確に計算せよ
「なんとなく750W」で選ぶのは素人です。以下の手順で計算してください。
① 計算ツールを使う
勘ではなく、データに頼りましょう。メーカー公式や専門サイトの計算機が優秀です。
OuterVision Power Supply Calculator(外部サイト)
Guru推奨度: ★★★★★
世界で最も詳細な計算機。CPUのOC電圧やファンの個数、USB機器まで入力して「推奨ワット数」を弾き出してくれます。
使い方: “Expert”タブを選び、パーツを入力。「Load Wattage」ではなく「Recommended PSU Wattage」の方を参考にすること。
ドスパラ 電源容量計算(外部サイト)
Guru推奨度: ★★★★
日本語でサクッと調べたいならこれ。主要パーツを選ぶだけで目安がわかります。
② Guru流「手計算」メソッド
ツールが面倒な人は、この公式を使ってください。
( [CPUの最大電力 TDP × 1.5] + [グラボの最大電力 TGP] + 100W ) × 1.3 = 買うべき容量
解説:
CPUはPL2(瞬間最大電力)で計算するため1.5倍。
「+100W」はマザボ等の予備。
最後の「×1.3」は、電源の変換効率が最も良い「負荷率50〜60%」で運用するためのマージンです。
例:Core i7 (250W) + RTX 4070 Ti (285W) の場合
(375 + 285 + 100) = 760W消費 → 1000W電源が理想的な運用ライン。
2. OEM元(製造元)を特定する裏技
ブランド名(Corsair, NZXT, ASUSなど)はあくまで販売元です。中身を作っているメーカーを知るのが真のオタクです。
Seasonic (シーソニック): 電源界の王者。ド安定。多くのハイエンド電源のOEM元。
Super Flower (スーパーフラワー): 質実剛健。EVGAなどのOEMでおなじみ。
CWT (Channel Well Technology): 世界最大級のOEM。CorsairやMSIの中身は大体ここ。設計次第だが、上位モデルは非常に優秀。
【裏技】
電源ユニットのラベルにある「ULナンバー(Eから始まる番号)」をGoogle検索すると、本当の製造工場がバレます。これで「名ばかりブランド」を見抜くことができます。
3. Guru推奨:2025年の鉄板構成
【Tier 1: 石油王・ガチ勢】
容量: 1000W〜1200W / 80PLUS Platinum or Titanium
候補: Seasonic VERTEX, Corsair HX/AXシリーズ
コメント: 10年使うつもりなら、これを買え。
【Tier 2: 賢いゲーマー(ベストバイ)】
容量: 750W〜850W / 80PLUS Gold / ATX 3.0対応
候補: Corsair RMx Shift, MSI MPG A850G, Antec NeoECO Gold
コメント: RTX 4070/5070クラスならこれが最適解。
【Tier 3: コスパ重視・エントリー】
容量: 650W / 80PLUS Bronze or Gold
候補: DeepCool PK-D, Cooler Master MWE
コメント: 予算が厳しくても、これ以下の「謎の中華電源」には手を出すな。
結び:心臓に金をかけろ
電源ユニットは、フレームレートを1fpsも上げません。
ベンチマークのスコアも伸びません。
友達に自慢しても「ふーん」と言われるだけです。
しかし、あなたが眠っている間も、ゲームに熱中している間も、黙々と綺麗な電気を送り続け、数十万円のパーツを守り続ける。
そんな「寡黙な守護神」に対して、敬意(予算)を払うこと。それが、自作PCという趣味を長く楽しむための最大の秘訣です。
さあ、今すぐ自分のPCケースを開けて、電源のラベルを確認してください。
もしそこに、読み方のわからないメーカー名と「500W Peak Output」なんて文字があったら……
悪いことは言わない。今すぐブラウザを開いて、ポチるのです。










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